コラム

公益通報者保護法

公益通報者保護法について⑥~労働者の通報先について~

弁護士 小島梓

 公益通報者が一定の要件を満たす形で公益通報を行った場合、勤務先が当該公益通報を理由として行った解雇は無効とするという形で、公益通報者は保護されることになっています。(公益通報者保護法3条柱書)公益通報者保護法では、この要件を各通報先ごとに定めています。
 さらに、公益通報者が「労働者」であるか、「役員」であるかによって要件も異なります。
 会社にとってこの要件は非常に重要です。なぜなら、勤務先以外に通報しても保護されるという状況になれば、外部への通報がなされやすい状況になるためです。

 そこで、今回は、公益通報者が労働者である場合に、どういった条件でどこに通報すれば保護されるのかについてご説明します。

(1)勤務先(公益通報者保護法3条1号)
「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」に勤務先に通報した場合には保護の対象となります。

(2)行政機関等(公益通報者保護法3条2号)
 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対して以下のいずれかの要件を満たす通報をした場合、保護の対象となります。

①通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合

②通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面を提出する場合
イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
ロ 当該通報対象事実の内容
ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由

 この行政機関への通報については、令和2年6月改正により、保護の対象が広がりました。現行法では①の要件を満たす場合でないと、保護されない仕組みになっていました。すなわち、通報対象事実が生じていることを裏付ける一定の根拠がなければ保護されない状況でした。
 しかし、令和2年6月改正により、②の要件を満たす場合でも保護されることになったため、より外部への通報はしやすくなったと言えると思います。
 そのため、会社としては、外部に通報される前に、内部でしっかりと解決できるよう、より一層内部通報制度の充実を図る必要が出てきます。

(3)マスコミなど(公益通報者保護法3条3号)
 マスコミや被害者など、「当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」に対して、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する」通報をした場合に保護されます。

イ 勤務先や行政機関に対する公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ロ 勤務先に対する公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
ハ 勤務先に対する公益通報をすれば、勤務先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
ニ 勤務先から行政機関に対する公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ホ 書面により勤務先に対する公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該勤務先から調査を行う旨の通知がない場合又は当該勤務先が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ヘ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人の財産に対する損害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

 上記説明は、令和2年6月改正も踏まえた内容としております。当該改正により新たに「ハ」が加わりました。
 会社の内部通報制度の関係から、特に「ホ」の要件などは注意を要します。内部通報窓口に通報したのに、会社が動いてくれないということになると、外部の第三者への通報が現実味を帯びてくることになるためです。
 また、「ハ」の要件が加わったことなども考えますと、会社としては、内部通報について秘密厳守等のルールを守りつつ、誠実な対応が求められることになると思います。

 次回は、取締役が保護されるための要件についてご紹介します。こちらもそれぞれの通報先により要件が異なります。